花弁に面影

*ED後の沖千
*死ネタ



はらり はらりと花弁が舞う。
それはまるで貴方の囁きのようで…



「何見てるの?」
「きゃっ」

突然の囁きに驚いて声をあげると、穏やかな顔をした恋人が傍らにいた。

「そ、総司さん…!耳元で喋らないで下さいっ!」

「だって、普通に声をかけても気付かなかったでしょ」

「えっ…すみません。桜に見とれてたもので…」

声をかけられていたなんて気付かなかった私は慌ててぺこりと頭を下げる。

「うん、知ってる。だから多分、普通に声をかけても気付かなかったでしょ?」

「え…、」

ということは実際に声をかけられたのはさっきの一回だけってこと?

「総司さん…!」

「どうしたの?僕、嘘でもついたかな」

「嘘はついてませんけど…」

少し腑に落ちないけれど、子供のような表情で笑う彼に怒るなんてできなくて言葉に詰まってしまった。

「…ごめんね。花に嫉妬なんて見苦しかったかな」

「え…?」

「花を見る君はとても綺麗だったけど、僕も見てほしいなって思って」

「……!」

そう言って困ったように笑う彼の妙に艶っぽい表情と真っ直ぐな言葉に顔が熱を持つのがわかった。

「わ、私はいつも総司さんを見てますよ…!これからもずっと、それは変わりません」

そう、これからもずっと。この枚散る花弁を貴方とふたりで見るために生きていくんだ。

(でも、残された時間はどれくらい?)

ふと過る問いかけにどくんと心臓が跳ねた。考えたくないのにもしも明日この花弁のように貴方が散ってしまったら、なんて思いが渦を巻いていく。

違う。私はずっとこの人と生きるの。今までと同じように、ずっと、ずっと…

「ずっと…変わりません…」

「千鶴、泣かないで」

「あ、…」

ふわりと優しい香りがしたかと思うと私は総司さんの腕の中にいた。そしてようやく自分が泣いていると知った。

「僕は君の笑顔が好き。だからね、涙に濡れた思い出なんかいらないんだよ」

「…総、司さん…」

泣いて。喚いて。逃げて。 それだけならきっと楽なんだ。だけど酷な現実は変わる筈もなくて。それを誰より貴方が理解しているのに…私が目を逸らしてちゃいけない。

私は彼の身体を優しく押し返した。そして真っ直ぐ瞳を見つめる。残された季節。その短い時間を見据えても尚
貴方が笑ってと願うなら。

「愛してます、総司さん」

想いのすべてを笑みに変えて彼の気持ちに応えよう。

「…泣き止んでくれたんだね。僕も愛してるよ…千鶴」

触れあう唇。貴方の温もり。舞い散る花弁が私達を包んだ。確かな幸せと永遠を感じた瞬間だった。




暗闇に光が見えた。 静寂に囀ずりが聞こえた。

「ん…」

重たい瞼を開くと目尻がひんやりとして無意識に指で拭った後それが涙だと気付く。

「夢…?」

いつの間に眠ってしまったのか。 私は立ち上がり庭へ続く障子を開けると空は日暮れを示していた。はらり はらりと暖かな風に誘われて茜がかった桜の花弁が舞う。 それはまるで貴方の囁きのようで。

「総司さん…」

呼んでも答えは返らない。貴方が居なくなってもうすぐ一年。私は独りの春を迎えた。最初の頃は痛くて辛くて小太刀をとった。 貴方を追って散ろうとした。けれど、確かに貴方は言ったから。

『笑って生きて』

私の生涯ひとりの想い人。

ねえ、私は笑ってこれたかな。 貴方の居ない灰色の世界を色付けることができてるかな。私は貴方と出逢えたこの奇跡を抱き締めて今も歩いているから。もう少しだけそこで待ってて。




花弁に面影



(いつの日か生まれ変われたらまた逢えると信じて…)



fin








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